導入事例国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)様

イノベーションをチームで行う時代の組織開発
360度による気づきを契機に、
組織開発の意義を認識

国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

iPS細胞研究所 所長補佐 菅 政之 様

スマレビ for 360°
  • 組織開発
  • チームワーク
  • マネジメント

360度フィードバック実施の背景

ーなぜ360度フィードバックを導入したのでしょうか?

CiRA(サイラ、京都大学iPS細胞研究所の略称、Center for iPS Cell Research and Application)では独創性が求められます。一方で、山中所長が常日頃言っているのは、「現在のイノベーションは一人では実現できず、チームでやるもの」だということです。ここでは独創性を持ったメンバーがチームでイノベーションをいかに加速させることができるかが鍵となるのです。

おかげさまでCiRAは設立後10年で約500人の規模(教職員と学生)になりました。しかし、そこには急成長した研究所特有の悩みがあります。提供される研究資金は期限付きであるため、ほとんどの人材が有期雇用です。そうすると人の入れ替わりが必然的に激しくなり、全体の2~3割ほどが常に入れ替わる状態になります。組織アンケートを行うと、研究室によってはチームの雰囲気が一年でがらりと変わる場合があります。ムードメーカーが加入するといい雰囲気になったり、問題を抱えて苦戦している人が出ると引っ張られてチームの雰囲気が悪くなったり、また研究室の番頭役を務めていたベテラン職員が退職するとラボマネジメントがうまく回らなくなったりします。

人の入れ替わりが激しくてチームワークが不安定になると、十分なOJTができなくなります。研究室の仕事は独自の習慣や技術的な手順があり、そこでしか仕事を覚えられません。そもそも簡単に標準化できるような仕事ばかりであれば研究の対象にはならないわけですから。OJTが円滑に進まないと、人が育たなくなり、生産性は低下します。それでも研究継続のためにPI(Principal Investigator 主任研究者)は必死の思いで新たな研究資金を獲得しますが、それもまた期限付きの資金なので、雇用も有期となり、人の入れ替わりはますます激しくなり・・・、と悪循環が続きます。

もちろん、CiRAでは寄付金を募集して長期的資金の比率を高め、雇用を長期化することに長年努力してきました。また、2020年4月からは研究所の細胞調製施設を中心に公益財団として分離し、安定した環境で細胞製造を行うようになりました。しかし、それだけでは限界もあるので「人が入れ替わってもチームワークが悪化しない」風土を醸成することは引き続き組織開発上の最重要課題だと思っています。
人材育成でよく引用される分類法にカッツモデル(Katz Model)があります。そのモデルでは、職位によらず一貫してヒューマンスキルの重要性が指摘されています。CiRAの人材はもともとテクニカルスキル(専門知識)とコンセプチュアルスキル(分析と創造)は極めて高いものがあります。研究室のチームワークにつながる弱点があるとすればヒューマンスキル以外ありえないと思われます。

山中所長が2015年に研究所のすべての教職員と学生を対象とする組織アンケートを開始して以来、有期雇用者の評価制度改善、360度フィードバックの導入、広報部門によるインナーコミュニケーション強化、各種コミュニケーション研修、所長補佐によるPI訪問などを試行錯誤してきました。今ふりかえると、すべてカッツモデルでいうところのヒューマンスキルの強化を試行錯誤していたことになります。

施策実施、サービス導入のねらい

施策の実施にはどのような期待があったのでしょうか?

コルブの経験学習モデルでは、人は「能動的実験→具体的経験→内省的観察→抽象的概念化」というサイクルで経験から学習します。CiRAの教職員は、「能動的実験」という点においては、自身でできることはすでに取り組んでいます。ですから、ヒューマンスキルにおいて改善できる部分があるとすると、DOの部分ではなくTHINKの部分、「内省的観察」ではないか、つまり、対話を通じて内省ができる場をつくることが必要ではないかと考えたのです。そのうえでフィードバックの量と質を増していくことが大事になる。360度フィードバックもその重要な要素と考えました。

施策実施上の重視したポイント、工夫点

運用するうえで気を付けたこと、意識されたことはありましたか?

組織アンケートは2015年から行っており、360度フィードバックはPIや支援組織の室長を対象に2017年から行っています。始めのころは、有期雇用者の評価システムを充実させているタイミングでもあり、これが人事評価に使われるのではと現場にネガティブな感情を引き起こしたこともありました。そこで、360度の実施目的が「教職員の気づきの促進である」こと、そして「人事評価に使うのではない」ことの周知に努めました。
360度の目的は、参加者自身にフィードバックするためであり、人事部門は見ません。ひたすら自身の気づきのための活用であることをお伝えしています。また、それと並行して、年一回、2名の所長補佐がPIを訪問し、各種施策に関する意見交換を通じて施策へのご理解をお願いしています。

効果と今後の展開

360度フィードバックでどのような効果がありましたか?

最初は取組みについてあまり関心がなかった先生方も、少しずつですが前向きのご理解をいただけるようになっていると思います。今回、CBASE社のサービスに切り替えたのを機に360度フィードバック後にアンケートを取ってみました。それらを見ると多くの皆さんが前向きに結果を受け取っていただけていることがわかります。例えば、「こうした組織開発のシステムがあることを初めて知った」という声や、「相手のために期待を込めて勇気を出してコメントするということが大事」と学ばれている方もいます。「気づかない部分を評価してもらって元気が出た」という方や「やっているつもりでもそう捉えられていないことがわかり、もう少し積極的に行動してもよいのではないかと思えた」という方もいました。アンケートの回収率はまだ30%強にすぎないので、道は遠いという気もしますが、根気強く取り組むことが大事だと思います。

「フィードバックの一言一言が直接役に立つか」ということが問題なのではなく、「フィードバックをしたら何が起こるか」といった、個々の姿勢そのものにおいて、お互いで学ぶことが大事なのではないかと考えています。こういうことを根気強く行うことで、「自分がコミュニティの中にいて、そこでのやり取りの中で育っている」と理解してもらい、「だからフィードバックをもらうことも大事だし、よいフィードバックを提供することもコミュニティの中の人間の役割としては意味がある」と思ってもらえるようにするだけでも状況は変わっていくのではないかと考えています。フィードバックに興味が湧くと人の話にさらに耳を傾けるようになり、どうしたら良いフィードバックを相手に伝えられるか考えるようになり、関係性の改善機会が増えていき、ますますフィードバックに興味が湧きます。逆に、フィードバックから目を背けてしまうと関係性の改善機会がどんどん閉じられていきます。 最初は小さな差ですがこれが5年、10年続くと大きな差になるでしょう。私がフィードバックの量と質を充実させたいというのは、そういう仮説からです。極端にいうと「フィードバック」が組織の共通言語になるだけで良い変化が生まれると信じています。

今後については、全く個人的な思いなのですが、360度フィードバックの対象を先生方だけでなく、中堅メンバーにもすそ野を広げたいと思っています。また、設問では御社の標準バージョンをそのまま利用できないかと考えています。これまではアカデミアと企業では設問内容も異なると考え、研究所独自のカスタマイズを入れていました。しかし、よくよく見比べてみると、聞かれている内容はどちらにも共通することばかりです。アカデミアと企業の違いは共通言語、習慣、メンタリティなどであって、ヒューマンスキルをはじめとした基礎的スキルは共通しているのではないかと感じています。標準の設問を利用したほうがフィードバック・レポートの内容も充実すると思います。

CBASEのスマレビについて

CBASEのサービスについて一言いただけますしょうか?

組織開発の取組みも、かかる労力が多いと続けられません。スマレビは手っ取り早く始められ、クラウドとして手間をかけずに、クオリティの高いフィードバックを受けることができます。そうした点が非常によいと感じました。実施も、私一人が事務局となり、期間中は勤務時間の20%ほどを割いただけですべて対応できましたので、どのような組織においても導入しやすいのではないかと思います。

360度フィードバックの導入を検討されている方に一言

これから360度フィードバックの導入を検討されている大学関係の担当者に、アドバイスをいただけますか?

多くのアカデミアにおいて、イノベーションの発展のためにはチームワークが不可欠です。いいチームワークをつくるためには、そこで参加する個人に依存するだけでは、安定した環境をつくることができません。アカデミアにおいてもチーム全体に体系的に働きかけるという組織開発の考えを取りいれることで、意図的にいいチームをつくることができるのではないかと思います。事実、欧米では広くラボマネジメントが研究され、活用されています。今の私たちは、研究室で人の反応が起きやすくするために触媒のようなものを仕込んでいる感じかもしれません。起きている変化はまだ小さいですが、おかげ様で道具は揃ってきたという感があります。2015年に山中所長が着手した一連の活動は、今風に言えば組織開発だったわけですが、5年以上かけてやっとこのような段階です。トップの強い意志と事務局担当者の根気強い取り組みの両輪が大事だと思います。

また、組織開発ツールとしては企業向けに開発されたものを流用することが多くなると思いますし、基礎的スキルは共通だと思うので活用すべきとも思います。しかし、共通言語、習慣、メンタリティの違いは尊重すべきです。そもそも、アカデミアと企業では社会的役割が違うのですから。例えば、アカデミアでは「経営」とか「マネジメント」という言葉は凄く違和感があります。企業向けに開発されたツールであっても、導入するときは「相手の言葉を使う」ことが大事だと思います。いったん組織アンケートや360度フィードバックを実際に行ってみて、データが出てくると、先生方の中には興味を持っていただける方も増えてきますので、実際にどんな変化が起きたかなど、実感として理解できるトピックを中心に説明していくとよいのではないかと思います。

国立大学法人 京都大学 iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

事業内容:iPS細胞ストックを柱とした再生医療の普及、iPS細胞による個別化医薬の実現と難病の創薬、iPS細胞を利用した新たな生命科学と医療の開拓、日本最高レベルの研究支援体制と研究環境の整備
設立:2010年4月
従業員数:約500名