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スペシャルコンテンツ第八回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度評価の信頼性の本質-人による評価の限界をどう理解するか?」

人材開発・組織開発の効果性を高める鍵が、360度フィードバックの活用です。本シリーズでは、360度フィードバックを経営・組織・人事戦略の中に位置づけ、多種多様に活用する方法について論じます。筆者の長年の実務経験に基づくベストプラクティスを述べるとともに、議論を補強し、かつ客観性を保つために、米国における360度フィードバックの最新の議論をまとめた書籍(以下「米国のハンドブック」と呼びます)を座右に置き、適宜引用します。
(本シリーズは、CBASE-Uセミナー『戦略的360度フィードバック実現の条件』(2021年5月~7月に実施)の内容を新たにまとめ直したものです。)

(引用する「米国のハンドブック」)
『Handbook of Strategic 360 Feedback』 Allan H. Church, David W. Bracken, John W. Fleenor, Dale S. Rose (Oxford University Press 2019)

(次の拙著もご参照ください)
『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)

避けられないバラツキと誤差

360度フィードバックにおいて、評価者が、「目的を理解した上で」「尺度をよく理解して」「真剣に」「自分がよく知る人について」評価したとしても、上司による人事評価と同じく、評価者による評点の甘辛が出てくることは避けられないことです。

だからこそ、複数の人に評価してもらって信頼性を高めるわけですが、360度フィードバックにおける評価者数は、一般的にせいぜい10~20人程度です。上司/同僚/部下というように区分けをすれば、一つの集計単位は3人~5名程度にもなってしまいます。評価者の誰かが、(5点満点の回答選択肢だとして)5点をつけようか4点をつけようか迷い、たまたま5点にしたか4点にしたかで、結果は目に見える形で変わってしまいます。もう一回評価をしたならば同じように迷い、今度は別の点数をつける可能性も高いでしょう。そうだとすると、「もう一回評価をしても同じ結果になる」という意味における「信頼性」の基盤は脆いものであることになってしまいます。

一般的にアンケート調査の信頼性は、回答者数を増やすことによって高めることができますが、求める精度によっては相当な回答者数が必要になります。10人に評価してもらったとしても、それほどの精度にはなりません。たとえば、ある設問に対して5点満点で3.5点という結果が返ってきたとして、回答者数に応じて、「誤差の範囲」は下記のようになります。10人に評価してもらった場合、10人の回答の平均点が3.5点であったとしても、その結果は「±2.5点の範囲内」すなわち「3.25点~3.75点の間のどこか」というくらいにとらえることが安全なのです。その場合に3.5点の人と3.6点の人とを比べた時、本当に3.6点の人が高い確率を計算すると、60%強程度にすぎません。(さすがに、3.5点の人と3.8点の人とを比べれば、3.8点の人が本当に高い確率は80%以上に高まりますが・・・)

  回答者数 誤差の範囲(回答のバラつきを表す標準偏差が±0.8の場合の標準誤差)
  5人  3.5点±0.36点
  10人 3.5点±0.25点
  20人 3.5点±0.18点
  50人 3.5点±0.11点

 

つまり、評価点の信頼性とは、ある意味では「その程度のもの」であって、その結果に基づいて報酬を決める、といった使い方をすべきものではないことがわかります。そのような評価の限界をどう理解し、どう対応したらよいのでしょうか? 360度フィードバックを推進する事務局は、経営者や社員に対してきちんと説明できるようにしておかなければなりません。「せいぜいその程度のものですから」「なあんだ」・・・で終わってはならないのです。

以下、次の順で対応法について述べていきます。それは人材理解の成熟度を高めるプロセスであるとも言えます。

  ■対応法1: 経年的にとらえる
  ■対応法2: 項目間の相対に着目する
  ■対応法3: バラツキそのものに着目する
  ■対応法4: データの性質を理解して活用する

対応法1:経年的にとらえる

たった一回の360度評価結果の高低に過度にとらわれるべきではありません。しかし逆に言えば、評価を何回も繰り返すことによって、評価者数が増えて誤差が少なくなることになり、結果の信頼性は高まっていきます。誤差などと言わずシンプルに考えても、繰り返し評価して複数回の評価を照らし合わせることにより結果の信頼性が高まることは当然です。

よって、360度評価結果の活用にあたっては、経年的にデータを蓄積しながら、最初の年はそれほど精度が求められない「気づきと育成」のために用い、2年目は「適性の見極め」に、そして3年目以降から本格的に「評価・報酬決定の参考情報」として使っていく、というように、段階的にステップを踏むことがよい方法です。

もちろん、経年的にデータを蓄積して照らし合わせるといっても、仕事の内容や職場環境・ビジネス環境等、評価の前提は変化しますので、そのような前提の変化の影響も考慮に入れながら照らし合わせるべきことは当然です。なお、経年的にデータを蓄積して活用するためにも、一度設定した設問項目は、内容・文言ともできるだけ変更せず、変更するとしても、「定点観測」すべき設問項目を決めて、その項目については変更せず固定するのがよいでしょう。(設問項目を変更する一方で経年的な比較も行う、高度なテクニックも存在はしますが、複雑なものになります。)

対応法2:項目間の相対に着目する

回答者による評価の甘辛のブレが大きく、評価点の絶対値の信頼性が高くない場合であっても、「どの項目が相対的に強いか/弱いか」という評価順位は比較的安定しており、すなわち信頼性が高い、というよく知られた経験則があります。

この点に着目し、まず「この人の(相対的な)強みは何か/弱みは何か」ということを把握するための情報として360度評価結果を活用する、というのが第2の方法です。適材適所配置も、人材育成も、「この人の(相対的な)強みは何か/弱みは何か」という情報に基づくことが合理的な方法です。よって、このような活用方法の応用範囲は広いのです。

このような活用方法は、評価点の絶対的な高低水準、すなわち人による評価の甘辛を無視したとしても、成り立つことに注意します。たとえば、自己評価だけを取り上げるとき、それはたった一人による評価となります。そして、自信家Aさんは自己を高く評価し、謙虚なBさんは自己を低く評価する傾向があったとして、どちらの評価傾向が正しいとはなかなか言えないでしょう。そのような場合であっても、Aさんは自身の相対的な強み/弱みをどうとらえているか、Bさんは自身の相対的な強み/弱みをどうとらえているか、という議論はでき、その議論だけで十分に目的を達する場合も多いのです。

対応法3: バラツキそのものに着目する

360度評価結果の信頼性が議論になるのは、評価者による評価のバラツキがあるからです。ある設問項目に関して、ある人は5点満点中4点と評価したのに対し、別の人は2点と評価した、ということは多々起こりえます。そのようなバラツキを吸収して結果を一つの値にまとめるために平均点を用いるわけですが、もともとバラツキがある以上、その値は、前述したように、誤差を伴う値となるわけです。

そこで発想の転換をします。評価者によるバラツキを、「評価点の信頼性を低下させる残念なこと」としてではなく、逆に「評価点を補足する重要な情報」としてとらえるのです。バラツキの傾向を見ることで、重要な情報が得られます。たとえば、対象者AさんとBさんとを比べた場合、平均点は同じでも、Aさんと比べてBさんの方が周囲からの回答のバラツキが大きく、その内容を精査すると上司側からの評価点は高いが部下側からの評価点は低い、といったことはよく見られます。Bさんの場合、相手によって同じような振る舞い方をしておらず、特に部下に対する振る舞い方に問題がありそうだ、ということが見えてきます。これは、平均点からだけでは得られない重要な情報であり、そのような情報を得たいために360度評価を行う、と言うこともできます。

対応法4: データの性質を理解して活用する

以上に述べた対応法1~3を経た上での究極の対応法は、「360度評価の回答に甘辛水準の違いといった主観的なバイアスが入るのは当然」であり、また、「回答場面での判断のブレがあることも当然」であり、そのようなことも含めて、そのような回答がなされたという事実を受け入れ、活用する、ということです。(そのためフィードバックにあたっては、できれば、平均点だけでなく、回答のバラツキを表す標準偏差、さらにできれば、どのような回答をした人が何人いるのか、という情報も含めて結果データを提示することがよいでしょう。)

そのような対応法は、「やむをえずそのようにデータを受け入れざるをえない」というネガティブな対応法ではありません。むしろ、「そのような受け入れ方こそが人事評価データの受け入れ方のあるべき姿である」というポジティブな対応法と言えます。というのも、人材というものは、組織や人間関係の中において、様々なバイアスやブレの中でお互いに見られ、判断され、活用されていることが現実だからです。大人であれば誰も、「私は、私の本当の真実の姿が理解されるべきであり、その結果に基づいて処遇されるべきだ」とは考えません。様々なステークホルダーの様々な視点、バイアスやブレの中で見られ、判断されることを受け入れて対処するのが大人というものです。360評価に限らず、人事評価の受け入れとはそういうことです。

いったんそのような考え方で結果データを受け入れることにすれば、あとは、回答データの信頼性の問題とは、回答者の問題、すなわち回答者が「善意で/真剣に」「尺度をよく理解して」「自分がよく知る人について」回答したかどうか、という問題に絞られることになります。そこで、回答者の条件を整えることが回答の信頼性を高めるための鍵、という、前回(第7回)の議論に戻っていくことになります。

まとめ: 360度フィードバックを通じて人材理解の成熟度を高める

以上、「360度評価の信頼性の本質」について述べてきました。それは、「人による評価の限界をどうとらえ、対応するか?」という問いに答えることでもありました。その問いを突き詰めることは、人間は客観的に定量化できる事実として活動しているわけではなく、組織や人間関係のネットワークの中でお互いの様々な見方や判断の中で活動している、ということに光を当てることでもありました。

それは、人材理解の成熟度を高めることであるとも言えます。360度フィードバックを通じて、そのような人材理解の成熟度を高めることができます。そして、それを通じて組織自体の成熟度を高めることができます。組織メンバー一人ひとりが、組織全体やステークホルダーの視点に立って自らを相対化し、お互いがお互いに対して謙虚になるからです。

次回は、「360度評価の信頼性を高める回答者の条件整備」について、回答者選定の方法を中心に論じます。

360度評価につきましては、下記の記事もご参照ください。
360度評価とは?多面評価を採用するメリットとデメリット

当シリーズのバックナンバーは下記からご覧ください。
第一回【360度フィードバックの戦略的活用法】「戦略的360度フィードバックとは何か」
第二回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度評価結果を人事評価にいかに用いるか」
第三回【360度フィードバックの戦略的活用法】「最新のHRテックをいかに取り入れるか」
第四回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度フィードバックの育成パワーの引き出し方」
第五回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度以外のアセスメント手法との組み合わせ方」
第六回【360度フィードバックの戦略的活用法】「人材開発から組織開発への拡大」
第七回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度フィードバックの品質をいかに高めるか」

半蔵門オフィス 代表
南雲 道朋
東京大学法学部卒、日系大手電気通信メーカーのソフトウェア開発企画部門に勤務後、外資系コンサルティング会社にて現場再生のコンサルティングに従事。
1998年以降、マーサージャパン、HRアドバンテージ、トランストラクチャなどにおいて人事・組織に関するコンサルティングや関連するウェブソリューション開発をリード。その経験の総まとめのために、2018年に半蔵門オフィスを設立。
最新の著書に、『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)(2021/3)がある。情報処理学会会員。


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HRコラム編集部

「CBASE 360°」は、株式会社シーベースが提供するHRクラウドシステムです。経営を導く戦略人事を目指す人事向けのお役立ち情報をコラムでご紹介します。

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