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スペシャルコンテンツ第六回【360度フィードバックの戦略的活用法】「人材開発から組織開発への拡大」

人材開発・組織開発の効果性を高める鍵が、360度フィードバックの活用です。本シリーズでは、360度フィードバックを経営・組織・人事戦略の中に位置づけ、多種多様に活用する方法について論じます。筆者の長年の実務経験に基づくベストプラクティスを述べるとともに、議論を補強し、かつ客観性を保つために、米国における360度フィードバックの最新の議論をまとめた書籍(以下「米国のハンドブック」と呼びます)を座右に置き、適宜引用します。
(本シリーズは、CBASE-Uセミナー『戦略的360度フィードバック実現の条件』(2021年5月~7月に実施)の内容を新たにまとめ直したものです。)

(引用する「米国のハンドブック」)
『Handbook of Strategic 360 Feedback』 Allan H. Church, David W. Bracken, John W. Fleenor, Dale S. Rose (Oxford University Press 2019)

(次の拙著もご参照ください)
『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)

切り離せない人材開発と組織開発

前々回、前回と、 360度フィードバックの人材開発への効果性をいかに高めるか、という見地から、「360度フィードバックの育成パワーの引き出し方」、そして「360度以外のアセスメント手法との組み合わせ方」と論じてきました。今回は、組織開発に視点を広げることで人材開発への効果性をさらに高めることを論じます。

人材開発が一人ひとりの能力やパフォーマンスを高めるものであるのに対し、組織開発は人と人との「関係性」や「相互作用」に焦点を当てた働きかけにより、個人を越えたチームや組織全体としてのパフォーマンスを高めることですが、人材開発と組織開発とは切り離せません。

というのも、企業における人材開発は、それ自体が目的ではなく、組織のパフォーマンスを高めることが最終的な目的ですから、人材の能力を高めるとともに、組織としてその能力を発揮させ、成果を回収しなければならないわけです。つまり、人材開発は、組織開発を伴って初めて完結するのです。

「360度フィードバックを受けたならば、自分の中だけで消化して終わらせるのではなく、チームメンバー皆に感謝を伝え、引き続き協力と支援が受けられるようにしてください」ということをいつも言っていますが、それもそのような文脈に位置づけられます。

組織開発の視点で人材開発と360度フィードバックに取り組む

初めから組織開発の視点を持って人材開発に臨むことで、人材開発そのものの効果を高めることができます。一人ひとりの能力を個別ばらばらに高めることを考えるのではなく、組織のパフォーマンスを高めるために、誰のどのような能力を開発し、発揮できるようにするのがベストか、という見地から、人材開発を考えるのです。

言い換えれば、「適材適所」のための人材開発を考える、ということです。常に適材適所の視点に立つことで、一人ひとりの能力発揮の機会もこれまで以上に与えられることになり、よって能力開発へのモチベーションも高まり、人材開発自体の効果が高まるわけです。

360度フィードバックのやり方も変わってきます。 自身の強み/弱みの振り返りにあたり、一人ひとり個別に能力基準と比べた自身の強み/弱みを振り返るのではなく、組織全体の水準を常に念頭に置き、組織の平均と比べた、すなわち他のメンバーと比べた自身の相対的な強み/弱みを振り返るのです。言い換えれば、組織の中での自身の特徴や立ち位置を振り返るのです。

そして、今後の能力開発の方向性を定め、アクションプランを立案するにあたっても、一人ひとり個別に立案するのではなく、他のメンバーと話し合いながら、お互いの特徴が活きるように、方向性をすり合わせながら行うのです。それは組織開発そのものであると言えます。このようなやり方が定着すると、結果のフィードバックの場面だけでなく、360度フィードバックのための回答をする場面そのものが、組織メンバー一人ひとりが自身を含むメンバー一人ひとりの強み/弱みを振り返り、適材適所を考える機会に他ならなくなります。

組織サーベイも360度フィードバックと一体のものととらえる

組織開発の視点に立つと、360度フィードバックは、組織サーベイ(「社員意識調査」「従業員満足度調査」「エンゲージメントサーベイ」など)とも一体のものととらえられます。

360度フィードバックと組織サーベイは別々のものではなく連続的なものであり、はっきりとした境目はないといってよい程です。360度フィードバックの評価対象者を「人」ではなく「私の所属する職場」とすれば、そのまま、職場サーベイになりますし、あるいは逆に、組織サーベイの調査項目に「私の所属長は・・・」と所属長を評価する項目を含めれば、その部分はそのまま、所属長に対する360度評価(部下評価)になります。組織サーベイにおける、「自身」や「上司」に関する設問をより詳細に調査するのが360度フィードバックである、という言い方もできるでしょう。

その上で、うまく組み合わせると効果的です。経営トップや役員にとっては、「社員からの通信簿」を組織サーベイに求めるとともに、自身の行動改善のヒントは、日頃から接している経営チームの中で相互に評価しあった360度フィードバックの中に求めることがよいでしょう。経営チームで、組織サーベイにおける経営陣の評価を振り返るとともに、360度フィードバックに基づいてお互いのリーダーシップのあり方や役割分担を振り返ることは、有効でしょう。

中間管理職は、組織サーベイの部門別集計結果によって、自分の組織メンバーが職場のあり方や自身の将来についてどのように認識しているのか傾向を知ることができますが、一方、360度フィードバックによって、自身のマネージャーとしてのあり方を振り返ることができるでしょう。そして、両方を突き合わせることで、組織の何を改善するために、あるいはメンバーが抱えがちな問題の何を解決するために、自身はマネージャーとしてどうしたらよいのか、データに基づいて方向性を定めることができるでしょう。

組織サーベイの設問と360度フィードバックの設問を表裏一体に設計する

組織サーベイと360度フィードバックを組み合わせて活用する効果を上げるためには、どちらも「組織と社員のあるべき姿」を落とし込んだものである必要があります。組織のあるべき姿を組織サーベイの設問に落とし込み、社員のあるべき姿を360度フィードバックの設問に落とし込むのです。

結果として組織サーベイの設問と360度フィードバックの設問が、お互いに対応・補完しあうものになることも多いでしょう。たとえば、会社で重視する価値観(バリュー)として「最高の顧客体験の提供」を掲げる場合、組織サーベイにおいては、「顧客体験を起点に仕事のプロセスが組まれている」「顧客の視点で判断する姿勢が浸透している」といった設問項目に落とし込まれ、360度フィードバックにおいては、「顧客視点での価値判断をメンバーに促している」「顧客体験の改善に自分ゴトとして取り組んでいる」といった設問項目に落とし込まれるでしょう。

一貫性をもって設問を作成するためのフレームワークとして、「組織モデル」を用いることをお奨めします。組織モデルとは、組織がどのような要素から成り立ち、要素と要素がどのように関係しあって組織の最終目的達成に至るのかというメカニズムを表現するものです。「組織モデル」として、長年様々なものが提案されていますが、いわゆる「マッキンゼーの7S」と呼ばれるものは、私がお奨めしているものの一つです。組織を診断する組織サーベイの設問項目に落とし込めることはもちろんですが、個人の行動に落とし込むことで、人を診断する360度フィードバックの設問項目に落とし込むこともできます。その例を次に示します。(組織モデルの種類や用い方については、拙著『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』第4章の本文と付録で論じていますので、ご参照ください。)

7つのS 組織の診断項目 個人の行動への落とし込み
戦略 (Strategy) 組織として今何を最も優先すべきか明確である 常に最終目的の達成に焦点を当てて計画を立てている
組織構造 (Structure) 組織の指揮命令系統は明確である 組織の指揮命令系統を用いて他部門と連携している
システム (System) 業務は標準化・システム化されている 仕事の効率性・ムダの削減を常に追求している
スタイル (Style) 顧客視点で仕事に取り組む姿勢が浸透している 顧客視点に立って常にサービス内容を見直している
人材 (Staff) 社員の多様性が尊重され、活用されている メンバーの多様性を活かしてチームワークに取り組んでいる
スキル (Skill) 最新の動向を取り込むための仕組みがある 自身の担当領域の知識・スキルをアップデートしている
共有価値 (Shared value) 組織のミッション・バリューは社員に浸透している 組織のミッション・バリューと自身の志向を結びつけている

組織開発で常に用いられてきた360度フィードバック

さて、米国のハンドブックでは、組織開発の大御所の先生により、組織開発の歴史においてどのように360度フィードバックが活用されてきたか、そして今後の展望はどうか、ということがまとめられています。

まず組織開発と360度フィードバックは昔から切っても切り離せないものであった、ということが述べられています。組織開発は、最初から「中間管理職の機能」に焦点を当てており、中間管理職のパフォーマンスを「人への関心」と「業績への関心」の2軸で評価する、いわゆる「マネジリアルグリッド」は、組織開発の取り組みの中で生み出されてきたものであり、それに基づく360度フィードバックが組織開発の手段として用いられてきたといいます。

ただし、組織開発のために360フィードバックが真に効果を上げるためには、次の要件を満たす必要があると言っています。

1. 組織が今後あるべき姿に基づいて、コンテンツ(設問)を作成する。

2. そのためにまず、組織を成り立たせている全ての要素を点検して、変革の課題を見極める。(このためには、何らかの「組織モデル」を用いるのがよい。)

3. 360度フィードバックと他の施策(教育、評価や報酬の制度など)とを組み合わせる。

4. 組織開発のために最も効果的な層を、360度フィードバックのターゲット層にするとともに、できるだけ多くの人を巻き込む。(たとえば、中間管理職の行動変化が鍵になるのであれば中間管理職クラスをターゲット層にし、トップダウンのリーダーシップが鍵になるのであれば執行役員・部門長クラスをターゲット層とする。そして、多くの人に評価者として参加してもらう。)

5. 経営陣が目に見える形でスポンサー/オーナーになる。(たとえば、360度フィードバックプログラムの意義について、経営トップ自ら社員に語りかける。)

6. 実施目的達成のために必要となる労力や時間を予め正しく伝え、予期や期待を裏切らない。

米国のハンドブックでは、時代の変化の中で巨大組織が変化に迫られ、その大波を360度フィードバックを活用した組織開発のプロジェクトを通じて乗り切った代表的な事例が2つ紹介されています。(一つは、1970年代、アポロ計画後にイノベーションセンターへの転換が求められたNASAの事例。もうひとつは、1980年代、サッチャー改革に伴う航空自由化後に、官僚的組織からの脱却が求められたBritish Airwaysの事例。) どちらの事例においても、新しい環境下における新しい組織の姿、とりわけ実現したい組織文化、そしてそこにおけるリーダーやマネージャーのあるべき姿を明文化することに、大きな焦点が当てられています。

組織開発はHRテックの活用をどう見るか

米国のハンドブックでは、本連載の第3回で論じた「最新のHRテックをいかに取り入れるか」というテーマについても、組織開発の視点から議論されています。

最新のHRテックがデータを用いたフィードバックの敷居を下げることで、組織開発も様変わりするのではないか、HRテックの活用が組織開発にとって変わることすらありうるのではないか、というのが論点です。なにしろ、データの形でフィードバックを得ることが飛躍的に容易になったのみならず、ロボティクスやビッグデータを通じて、人手を介さずに人と人の交流状況が可視化されたり、あるいは例えば、目の動きをカメラでとらえてストレス状況まで把握できたりする時代になりつつあるからです。

そのようなテクノロジー活用について、組織開発においては情報が多ければよいというものではない、と注意が促されています。組織開発においては、「このように組織を変えてゆきたい」という経営の意思が重要だからです。データの海の中に経営のメッセージが埋もれることになっては本末転倒です。

一方で、HRテックを通じて、組織のどこに課題があるのか突き止めるための分析データが得られることへの期待が述べられています。「組織モデル」を用いて変革の課題を見極める、という時、従来は定性的な検討しかできなかったところ、組織を成り立たせている要素間の影響関係を定量的に分析することができれば、的確に、説得力をもって、課題を設定できます。「組織開発の実務家の中で統計手法を使う人の割合は、以前の調査によれば24%にすぎなかったが、この割合を増やす必要がある」ということも述べられています。

いずれにしても、「組織と人のあるべき姿」を起点とする組織開発の視点は、 360度フィードバックの企画にあたって、今後とも羅針盤になることは間違いありません。

360度評価につきましては、下記の記事もご参照ください。
360度評価とは?多面評価を採用するメリットとデメリット

当シリーズのバックナンバーは下記からご覧ください。
第一回【360度フィードバックの戦略的活用法】「戦略的360度フィードバックとは何か」
第二回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度評価結果を人事評価にいかに用いるか」
第三回【360度フィードバックの戦略的活用法】「最新のHRテックをいかに取り入れるか」
第四回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度フィードバックの育成パワーの引き出し方」
第五回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度以外のアセスメント手法との組み合わせ方」

次回は、人材開発のテーマはいったん置いて、「360度フィードバックの品質をいかに高めるか」について論じます。

半蔵門オフィス 代表
南雲 道朋
東京大学法学部卒、日系大手電気通信メーカーのソフトウェア開発企画部門に勤務後、外資系コンサルティング会社にて現場再生のコンサルティングに従事。
1998年以降、マーサージャパン、HRアドバンテージ、トランストラクチャなどにおいて人事・組織に関するコンサルティングや関連するウェブソリューション開発をリード。その経験の総まとめのために、2018年に半蔵門オフィスを設立。
最新の著書に、『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)(2021/3)がある。情報処理学会会員。


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