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スペシャルコンテンツ第四回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度フィードバックの育成パワーの引き出し方」

本シリーズについて

人材開発・組織開発の効果性を高める鍵が、360度フィードバックの活用です。本シリーズでは、360度フィードバックを経営・組織・人事戦略の中に位置づけ、多種多様に活用する方法について論じます。筆者の長年の実務経験に基づくベストプラクティスを述べるとともに、議論を補強し、かつ客観性を保つために、米国における360度フィードバックの最新の議論をまとめた書籍(以下「米国のハンドブック」と呼びます)を座右に置き、適宜引用します。
(本シリーズは、CBASE-Uセミナー『戦略的360度フィードバック実現の条件』(2021年5月~7月に実施)の内容を新たにまとめ直したものです。)

(引用する「米国のハンドブック」)
『Handbook of Strategic 360 Feedback』 Allan H. Church, David W. Bracken, John W. Fleenor, Dale S. Rose (Oxford University Press 2019)

(次の拙著もご参照ください)
『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)

戦略的360度フィードバックでは、組織全体として育成に取り組む

360度フィードバックは、長年、主に人材育成の目的で用いられてきました。典型的な用いられ方は、管理職研修にあたって事前に職場メンバーにアンケートを行い、その結果を管理職研修の場でフィードバックし、自身の管理職としてのあり方について気付きを得ていただき、行動改善につなげていただく、というものだったと言えるでしょう。
現代の「戦略的360度フィードバック」は、人材育成のみを目的とするものではない、ということは、本連載の第一回で述べたとおりです。それは、経営戦略・組織戦略・人事戦略の中に位置づけられ、戦略目標達成に向けて、「バリューの浸透」「職場風土改善」「エンゲージメントの強化」「人事評価」「任用判断」「キャリア開発」「人材データベース構築」といった様々な目的で用いられます。
その中で、「育成」は今なお大きなテーマです。しかも、育成の効果がより確実に得られるようにします。「戦略的360度フィードバック」では、上司も、同僚も、部下も、お互いがお互いの育成の担い手となることで、組織全体として育成に取り組むことになるからです。

戦略的360度フィードバックでは、人の「知」「情」「意」全てに働きかける

戦略的360度フィードバックは、組織全体で育成に取り組み、お互いがお互いの育成の担い手になることで、「知」「情」「意」すなわち人間精神の全ての側面に働きかけるものになります。それが育成の効果を確実なものとします。日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一は、その著書『論語と算盤』の中で、「人の心には智、情、意の3つがあって、人間社会で活動して成果をあげるには、この3つが調和しなければならない」ということを言っていますが、それは人の育成にそのままあてはまるのです。


【知(=理解)】 自身の強み/弱みや、今後向かうべき方向性を、組織の方向性に照らして正しく系統立てて理解、腹落ちさせる
【情(=受入)】 組織の中における、自身の姿を素直に受け入れ、自身の強みが活用されることを願う
【意(=行動)】 変革・成長しようという意思を持続させ、行動を継続させる

「知」「情」「意」への働きかけの具体的なポイント

「知」「情」「意」への働きかけの具体的なポイントは、次のとおりです。これら、「知」「情」「意」のポイントをカバーしていくために、360度フィードバックプログラム全体を注意深く組み立てるとともに、プログラムの目的とプロセスを、すべての組織メンバーにしっかり伝えながら進めます。そのためにも、経営トップのサポートのもと、人事部門が主導して、組織全体の取り組みとして進めます

 ■「知」への働きかけ・・・点数の高低ではなく、自身の強み/弱みの理解に集中させる

360度フィードバックのレポート(周囲の人へのアンケート集計結果)を、対象者に正しく理解いただくことが出発点となります。
ここで避けなければならないことが、「周囲からの評価には信頼性がない」と斜に構えられてしまうことです。人によって評価には甘辛があるのが通常であり、絶対的な評価点として見るならば、信頼性に疑問が出るのはある意味当然です。しかし、評価項目全体の中で「何が自分の強み/弱みか」ということを把握するためには、たとえ数人からの評価であっても、360度フィードバックのデータには十分な信頼性があるものです。まずはそのことに注意を向けていただくことがポイントになります。
評価項目が体系的でわかりやすいものになっており、評価項目は妥当なものであるとフィードバックの受け手にしっかりと理解されていることも重要です。


■「情」への働きかけ・・・他者の視点に立つことで、ショックを受け流させる

360度フィードバックを初めて受けて、初めて自分のレポートを開いたとき、「自分で思っている自己像」と、「レポートに示された自己像」の違いに、人はショックを受けることがあります。この感情の揺らぎに対処できないと、人はそこから先に進んでいくことができません。
この感情の揺らぎを乗り越えていただくポイントは、「自分で思っている自己像」はいったん脇に置いて、他者から自分がどう見えているのかということに、淡々と視点を移し替えていただくことにあります。他者からどう見えようと、「自分で思っている自己像」が否定されたと考える必要はなく、ただ単に、「組織の中における自己の姿とは、他者から見える姿である」ということに気づいていただくだけなのです。「天動説から地動説に転換」していただくようなものです。
周囲から語られた、自身の強みを示すポジティブな情報に集中してレポートの情報を咀嚼した上で、次に、要改善点を示すネガティブな情報の咀嚼に進んでいただく、ということも重要です。周囲からの暖かい、そして率直なコメントを読む中で、組織の中ではお互いの支援の中でお互いが活躍できている、ということが実感され、「地動説への転換」も進みます。




  ■「意」への働きかけ・・・他者とともに歩ませる

360度フィードバックによって呼び起こされた、自身を変革し成長しようという意思・意欲を持続させるポイントは、一人で歩まないことです。フィードバックを提供してくれた他者に感謝し、今後の方向性を共有し、変革をコミットし、また他者もそれを応援する・・・そのような関係を職場の中で築けたとき、変革・成長への意思は強化され、持続します。360度フィードバックをきっかけに、お互いがお互いを応援する職場風土を作り出していくことも重要です。


自己変革プロセスのモデル

米国のハンドブックにおいては、この「知」「情」「意」に相当するものが、「Enlighten」「Encourage」「Enable」の3要素として提案されており、かつ、その内容が、12ステップのプロセスとして整理されています。360度フィードバックを育成のために用いるチェックリストとして有用と言えます。
(“Enlighten, encourage, and enable individual change model to leverage impact of 360 feedback” by Kenneth M. Nowack)

1 蒙を啓く (Enlighten) ① 正確な洞察 (Accurate Insight)
② 自分を特徴づける強みの特定 (Identifying Signature Strengths)
③ 理想の自分と現実の自分との対比 (Ideal vs. Real Self)
2 勇気づける (Encourage) ④ 動機づける (Motivation)
⑤ できると思わせる(自己効力感) (Self-Efficacy)
⑥ スキルを構築する (Skill Building)
⑦ ナッジ(リマインダー) (“Nudge” Reminders)
3 できるようにする (Enable) ⑧ 実現の意思 (Implementation Intentions)
⑨ 訓練(練習)計画 (Practice Plans)
⑩ 周囲の(ソーシャルな)サポート (Social Support)
⑪ 後戻りの防止 (Relapse Prevention)
⑫ 目標達成の評価 (Goal Evaluation)

ポジティブ・ファーストがポイント

さらに、米国のハンドブックでは、「知」「情」「意」に影響を及ぼす、気をつけるべき要因についての研究論文がいくつか紹介されています。特に、「情」に関わる、フィードバックの生理的影響についての研究結果は重要でしょう。これによれば、ポジティブな情報(褒める情報)とネガティブな情報(問題を指摘する情報)をどのような順番で、どのように提示するかということが、フィードバックの効果を大きく左右するのです。フィードバックの効果を高めるために、このような心理プロセスにも十分な注意を払いながら、フィードバックのプロセスを組み立てることが重要です。

【研究1】 (褒める)ポジティブなコメント量が、(問題を指摘する)ネガティブなコメント量よりも多い 
 → フィードバックでパフォーマンスは向上。
(問題を指摘する)ネガティブなコメント量が、(褒める)ポジティブなコメント量よりも多い 
→ フィードバックでパフォーマンスはかえって低下。
【研究2】 「ポジティブな感情」が「ネガティブな感情」の2倍~5倍表される時に、人やグループのパフォーマンスは最も向上する。
【研究3】 神経科学によれば、「自身の社会的評価への脅威を感じさせるストレス要因」は、「身体的な痛みや苦痛」から誘発されるのと同じ神経生理学的反応を誘発する。
【研究4】 fMRIで測定したところ、「問題指摘型のコーチング」スタイルと、「将来ビジョンおよび共感に基づくコーチング」スタイルとを比較すると、後者の方が脳の広範な領域に作用し、フィードバックの受け入れと新たな目標設定につながりやすいことがわかった。

360度評価につきましては、下記の記事もご参照ください。
360度評価とは?多面評価を採用するメリットとデメリット

当シリーズのバックナンバーは下記からご覧ください。
第一回【360度フィードバックの戦略的活用法】「戦略的360度フィードバックとは何か」
第二回【360度フィードバックの戦略的活用法】「360度評価結果を人事評価にいかに用いるか」
第三回【360度フィードバックの戦略的活用法】「最新のHRテックをいかに取り入れるか」

次回は、「360度以外のアセスメント手法との組み合わせ方」について論じます。

半蔵門オフィス 代表
南雲 道朋
東京大学法学部卒、日系大手電気通信メーカーのソフトウェア開発企画部門に勤務後、外資系コンサルティング会社にて現場再生のコンサルティングに従事。
1998年以降、マーサージャパン、HRアドバンテージ、トランストラクチャなどにおいて人事・組織に関するコンサルティングや関連するウェブソリューション開発をリード。その経験の総まとめのために、2018年に半蔵門オフィスを設立。
最新の著書に、『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)(2021/3)がある。情報処理学会会員。


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スマレビ HRコラム編集部

スマレビは、株式会社シーベースが提供するHRクラウドシステムです。経営を導く戦略人事を目指す人事向けのお役立ち情報をコラムでご紹介します。